元論文
Plastics shape the black soldier fly larvae gut microbiome and select for biodegrading functions
https://microbiomejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40168-023-01649-0
参考文献
海洋プラスチックについて 環境省
https://www.env.go.jp/council/03recycle/%E3%80%90%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%93%E3%80%91%E6%B5%B7%E6%B4%8B%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf
プラスチックは消化できない
突然ですが、人間がプラスチックを食べるとどうなるでしょうか?
おそらくお腹を壊すでしょう。いくらお腹が空いていてもプラスチックを食べる人はいないでしょう。
人間を含む多くの生き物はプラスチックを消化することができません。
そのためプラスチックごみは自然に分解されにくく、9割はリサイクルされず地球のどこかにあると言われています。そして2050年には海の全ての魚の重さをプラスチックが超えると言われており、海洋プラスチックの削減はSDGsの14番目の項目としても掲げられています。
便所バチが世界を救う?!
アメリカミズアブというアメリカ原産のアブは日本で水洗式便所が普及するまでは「便所バチ」と呼ばれていました。ちなみにアブはハチではなくハエの仲間です。
便所バチことアメリカミズアブの幼虫は生ゴミなどの有機廃棄物処理で注目されており、生ごみを食べさせた幼虫を鶏のエサとして活用したりしています。
もしかすると、アメリカミズアブは有機廃棄物だけではなくさまざまな廃棄物を分解できるのかもしれません。
ひょっとすると、プラスチックも分解できてしまうのではないでしょうか?
フェデリコ2世・ナポリ大学の研究チームがアメリカミズアブに秘められた可能性を探りました。
便所バチにプラスチックを食べさせると・・・
まず研究チームは幼虫にプラスチックの成分を混ぜた餌を食べさせて、その生育や腸内細菌の変化を観察しました。
その結果、プラスチックの成分を混ぜた餌を与えられた幼虫は通常よりも体重が増加せず、10~15日遅れてサナギになりました。
プラスチックを食べることはアメリカミズアブにとっても健康的ではなさそうですね。
おそらく身の回りにプラスチックしかなければ仕方なくプラスチックを食べるという感じでしょう。
腸内細菌を調べると、プラスチックを食べた幼虫の腸内細菌の種類が変化していました。
特に放線菌という種類の細菌が多くを占め、この仲間は劣悪な環境条件にさらされても生き延び、さまざまな物質を分解できる酵素を産生することが知られています。
放線菌の他にもプラスチックを食べていない幼虫からは検出されなかった細菌が検出されました。
プラスチック分解のカギ
さらにプラスチックの成分の入った餌の残りを調べるとプラスチックを酸化する酵素を腸内細菌が分泌していたことが判明しました。
つまり、プラスチックを微生物が分解するためには酸化が重要であったということです。
酸化されることによってプラスチックの化学的な安定性が崩れて分解しやすくなるのです。
自転車をこぐときの最初のひとこぎは重たいですが、その後はあまり力を加えなくてもスイスイ進みます。
プラスチック分解における酸化も自転車の最初のひとこぎのようなもので、その後は比較的簡単に分解できるようになります。
また腸内細菌の遺伝子を詳しく調べたところ、その中の多くは未知のものであるということが分かりました。プラスチックを食べたものでは未知の細菌の割合がより多くなっていました。
今後これらの未知の細菌の生態や性質を調べることによって、より効果的なプラスチックの削減につながっていくかもしれません。
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