なぜこんなにバラバラなのか?トコジラミ類のメス交尾器の位置の多様化

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元論文
The Evolution of Female-Biased Genital Diversity in Bedbugs (Cimicidae)
https://academic.oup.com/evolut/advance-article/doi/10.1093/evolut/qpad211/7450940

トコジラミのエグイ交尾

トコジラミはナンキンムシとも呼ばれる昆虫でシラミではなくカメムシの仲間です。
人の血を吸い、布団やベッドなどの寝具に潜み、そこで被害を受ける人が多かったことから「トコジラミ」と呼ばれるようになりました。ちなみに英語ではbedbug(ベッドバグ)と言います。
トコジラミはオスがメスの体の表面に穴をあけて精子を体の中に直接注入するという一風変わった方法で交尾を行います。
これを外傷性受精がいしょうせいじゅせいと言い、メスはspermalegeとういう外傷性受精がいしょうせいじゅせいのための交尾器をもちます。
外からは切れ込みのように見えて、産卵や排泄は行わない交尾(受精)のためだけの器官になっています。
spermalegeは病原菌感染などの外傷性受精がいしょうせいじゅせいによる悪影響を減少させるために発達したのではないかと考えられています。
実はspermalegeの位置は種によってバラバラで、動物界でも類を見ないほどに多様だと言われています。

一般的に生殖器の形質の変化は雌雄どちらかの変化に伴ってもう一方も変化すると考えられています。
しかし、生殖器のオスとメスの変異が、交尾形質から生じるのか、それとも非交尾形質から生じるのかはよくわかっていません。
ほとんどの生殖器の研究では産卵、出産、老廃物の処理、精子の貯蔵など、交尾と並行してメスの生殖器が重要な機能を持つ種を対象としているためです。

そこでUniversity Museum of Bergenの研究チームはトコジラミのオスの交尾器の形態に合わせてメスの交尾のためだけの器官であるspermalegeの位置が進化してきた可能性を検証しました。

メスの位置とオスの形

メスの位置

研究チームはトコジラミの祖先のspermalegeは背側で第5節と第6節の間(5/6)に位置し、右側か左側(中央ではない)にあると推定しました。

トコジラミの祖先のメスのspermalegeの位置(赤丸部分)/Credit:Steffen Roth et al.The Evolution of Female-Biased Genital Diversity in Bedbugs (Cimicidae).Evolution:International journal of organic evolution(2023)

系統樹をもとに背側から腹側へ1回、前後に9回、左右に11回のspermalegeの位置の変化が進化の過程で起きていることが分かりました。
また、これらは数百マイクロメートルから数千マイクロメートル単位での変化でした。

オスの形

オスの交尾器は精子を注入するaedegusと把握器(paramere)と呼ばれるメスに精子を注入するための器官から成っており、把握器(paramere)は種によって2つもつものと1つしか持たないものがいます。
研究チームはオスの交尾器の内の把握器(paramere)の形を調べました。

すべてのトコジラミ類でオスの交尾器は腹部末端にあり、把握器(paramere)は2つあるものでは左右非対称に、1つしか持たないものは左寄りについていました。
系統樹をもとに、把握器(paramere)の形において長さの変化が9回(3回延長、6回短縮)形状の変化が8回(3回直線状から凹状、3回凸状から直線状)進化の過程で起きていることが分かりました。
また、これらは数十マイクロメートル単位での変化でした。

メスの位置とオスの形の関係性

メスのspermalegeの位置の変化は数百マイクロメートルから数千マイクロメートル単位であったのに対して、オスの把握器(paramere)の形の変化は数十マイクロメートル単位でした。
変化の単位に数十から数百倍の違いがあることから、一方の性によるもう一方の性器の「追跡」はほとんどないということが示唆されています。

さらに、トコジラミは約1億1500年前に地球上に出現したのですが、
そこから計算して、spermalegeの位置の前後の変化は1,260万年ごとに1回、左右に1,040万年ごとに1回、長さは1,260万年に1度、把握器(paramere)の形は1,430万年に1回変化していることが分かりました。
ここからspermalegeは把握器(paramere)の長さや形よりも1.58倍速く進化していることが導き出されました。
またspermalegeの位置の変化は古い時期に1度に爆発的に起こり、把握器(paramere)の形の変化は時間経過とともにランダムに起きていました
したがって、spermalegeの位置と把握器(paramere)の形の変化は速度もタイミングも異なっています。

以上の結果を踏まえて、メスのもつspermalegeの位置はオスの交尾器の形態に合わせて進化したわけではないと言えます。
では、何がspermalegeの位置の変化を引き起こしたのでしょうか?
研究チームはオスの交尾行動に関連しているのかもしれないと考察しました。
至る所から外傷性受精を行われることによるダメージを軽減させるために、挿入箇所をspermalegeの位置に従わせているといった仮説が考案されました。
今後、交尾器と交尾行動の進化について調査されることによって明らかになるかもしれません。

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