元論文
Darwin’s “neuters” and the evolution of the sex continuum in a superorganism
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.11.13.566820v1.full
働きアリの性別
アリは同種でも役割によって大きく、女王、オス、ワーカー(働きアリ)に分けられます。
女王はオスと交尾をして産卵し、ワーカーは採餌や女王の産んだ子の世話など巣の運営を行います。
人間の性別は性染色体(XとY)の組み合わせによって決まり、XYだと男性、XXだと女性になります。
しかし、アリは性染色体を持たず受精卵はメス、未受精卵はオスという方式で性別が決まります。
ワーカーは受精卵から生まれるのですが、卵を産むことはありません。
受精卵から生まれるのでほとんどの種では不完全な雌生殖器をもちますが、全てのアリの内の3%ではワーカーに性細胞や生殖器官が全くありません。
そうなると、ワーカーの性別はオスともメスとも言えない「第3の性」ということになります。
リーゲンスブルグ大学の研究チームはワーカーに性細胞や生殖器官の無いアリの1種であるキイロハダカアリの胚発生と胚の遺伝子の発現などから女王とワーカーの分化の仕組みを調査しました。
女王と働きアリの分化
胚発生
発生中のからだ全体を胚(卵の中にいる状態)と呼び、個体ができるまで(孵化できるようになるまで)の過程を胚発生と言います。
キイロハダカアリの胚発生は9日間に渡り、5段階で進行します。
第3段階になると性決定に関する遺伝子の発現が観察されました。
しかし、全く発現しないものもあり、それらは全てワーカーになりました。
画像のピンクの点と青色の点が性決定に関する遺伝子の発現している部分なのですが、ワーカーでは真っ暗になっています。
また第5段階(8~9日目)の女王胚ではメスの生殖腺が発達し始め、(原因も機能も不明な)明瞭な結晶性沈殿物が見られました。
これによって女王とワーカーの胚をそれぞれ~95%と~80%の精度で識別することができました。
これらの結果から胚発生の第3段階から第5段階において女王とワーカーが分化していることが示唆されました。
遺伝子の発現
研究チームは胚の分化をより深く理解するために第5段階の女王、オス、ワーカー胚の遺伝子の発現を比較しました。
昆虫ではdouble sexという遺伝子が雌雄差を生じさせ、性決定に重要な役割を担っています。double sexによってカブトムシのオスにはツノがありメスにはツノがないといった昆虫の雌雄差が生み出されています。
キイロハダカアリの第5段階の胚においてdouble sexの発現量がワーカー、女王、オスの順で高くなっており、ワーカーと女王の間にも差がありました。
さらに全体としてそれぞれの遺伝子の共通している部分がどの程度あるのかを調べると、オスと女王、オスとワーカーよりも女王とワーカーの方が差異が大きいという結果が出ました。
親とは異なる形質をもつ子が生まれる
胚発生、遺伝子の発現の観察から胚発生の段階で女王とワーカーが分化し、同時に性決定に関する遺伝子の発現にも差異が生じていることが示されました。
女王アリとなるこは幼虫のときに特別な育て方をされるのですが、生まれた時から既に女王になることが決まっているようです。
また、生まれによって女王になるかワーカーになるかが決まっているということは親(女王とオス)とは異なる形質をもつ子(ワーカー)が生まれるということになります。
これによってアリのような社会性昆虫は高度な役割分担が進化したのかもしれません。
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