元論文
Early destruction of cockroach respiratory system and heart by emerald jewel wasp larvae
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(23)00755-8?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0960982223007558%3Fshowall%3Dtrue#secsectitle0050
目次
他の昆虫に寄生するフツウのハチ
小学校の理科の授業でモンシロチョウの幼虫を育てたことのある方は多いと思います。
育てている最中に幼虫の体から小さな黄色いうじ虫がうじゃうじゃ出てきた、という経験をお持ちの方も少なくはないのではないでしょうか?
うじ虫の正体はアオムシコマユバチという小さなハチです。
モンシロチョウの幼虫に卵を産みつけ、
卵から生まれたハチの幼虫はチョウの幼虫の体を食べて育ちます。
そして、チョウの幼虫がサナギになる直前に外へ出てサナギになります。
いわゆる寄生です。
ハチの仲間にはアオムシコマユバチのように他の昆虫に卵を産みつけて寄生するものが数多く存在します。
これらのハチの仲間の多くは寄生した相手を長く生かしておくために呼吸に関わる心臓(背管)や気管などを避けて食べます。
ところが、ハチの世界にも「変わり者」は存在します。
他の昆虫に寄生するアブノーマルなハチ
ハチ界の「変わり者」としてエメラルドゴキブリバチは近年最も有名になってきているのではないでしょうか。
アフリカや南アジアなどの熱帯に生息していますが、日本の一部の博物館でも展示されています。
エメラルドグリーンの美しいハチで、名前の通りゴキブリに寄生します。
ゴキブリに寄生する美しいハチというだけで変わり者としては充分ですが、
本番はここから。
なんと、この美しい変わり者は呼吸に関わる心臓(背管)や気管などを早い段階で食べて破壊してしまうのです。
アオムシコマユバチたちの理にかなった行動の真逆です。
不合理な生存戦略のようにみえますが、
エメラルドゴキブリバチが今現在生き残っているということは生き残る上で有利な戦略であるということになります。
なぜエメラルドゴキブリバチはこのような戦略をとっているのでしょうか?
アブノーマルな生存戦略は理にかなっている?
寄生とは高地トレーニングのようなもの
スポーツ選手のトレーニング方法に「高地トレーニング」というものがあります。標高が高く空気のうすい場所でトレーニングを行うことによって持久力が鍛えられます。
マラソンの高橋尚子選手や野口みずき選手も高地トレーニングを実践していたそうです。
ハチが寄生した相手の体内も外の環境よりも空気がうすいです。
つまり、他の昆虫に寄生しているハチの幼虫も高地トレーニングを行なっているようなもので、あらゆる動きが鈍くなってしまいます。
気管を破壊して「高地トレーニング」を回避する
ハチは(おそらく)スポーツ選手のように体を鍛えたいと思っているわけではないので、「高地トレーニング」なんてやりたくない可能性が高いでしょう。「平地」で柔軟に動くことができた方が生き残る上でも有利です。
そこで、エメラルドゴキブリバチの幼虫は早い段階で気管を食い破りました。
するとゴキブリの気管を通じてハチの幼虫のもとに空気が届くようになるのです。
空気の流入によってハチの幼虫がゴキブリを食べるスピードが早くなることも確認されました。
早く食べることができれば早く成長することができ、寄生した相手を長く生かしておく必要もなくなります。
エメラルドゴキブリバチの一見すると不合理な生存戦略は、みんなが嫌がる「高地トレーニング」を回避することができる画期的なものだったのです。
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