ショウジョウバエと寄生バチの宇宙旅行

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元論文
Drosophila parasitoids go to space: Unexpected effects of spaceflight on hosts and their parasitoids
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(23)02836-5?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS2589004223028365%3Fshowall%3Dtrue

宇宙旅行の課題

人が宇宙へ行く上で重力や放射線による環境の違いによる身体への影響が課題となります。
特に免疫機能への影響が懸念され、病原体や寄生虫へ宇宙空間が及ぼす影響については特に知見が乏しいです。
とはいえ、いきなり人で実験するわけにもいかないのでまずは虫で実験してみよう!
というわけでショウジョウバエと寄生バチに白羽の矢が立ちました。
ショウジョウバエは生物学の様々な実験で用いられてきたモデル生物でもあり、宇宙空間での実験にも古くから供試されてきました。
今回の実験には健康なハエに加えて血液腫瘍のあるハエを用いました。
寄生バチはショウジョウバエに寄生するLeptopilina heterotoma(様々な種に寄生)とLeptopilina boulardi(特定の種に寄生)の2種を用いました。
これらのハチはハエの幼虫の表皮に鋭い注射針のような産卵管を突き刺して卵と毒を注入します。
それぞれの寄生バチに寄生されたショウジョウバエの幼虫と寄生されていない幼虫を専用のボックスに入れてSpaceX-14という宇宙船に乗せて地球と国際宇宙ステーションを34日間かけて往復しました。

Aショウジョウバエ成虫(左上)ショウジョウバエ幼虫(左下)寄生バチ(右下)B,C寄生バチに寄生されたショウジョウバエの幼虫の入ったボックス/Credit:Jennifer Chou et al.IScience(2024)

宇宙でのショウジョウバエ

宇宙旅行をした健康なハエの生存率は地球で飼育したハエの約半分になりました。
しかし、血液腫瘍ハエでは宇宙旅行をしたハエと地球で飼育したハエの生存率はメスではほぼ変わらず、オスでは宇宙旅行をした方がわずかに高い生存率を示しました。

次に遺伝子の変化を観察しました。
地球では健康なハエと血液腫瘍ハエでは15個の遺伝子にしか発現に差が見られなかったのですが、宇宙旅行後には96個の遺伝子の発現に差が見られました。
また、健康なハエでは地上のハエと比較して96個の遺伝子の発現に差が見られましたが、血液腫瘍ハエでは地上のハエと比較して10個の遺伝子にしか発現の差が見られませんでした。
特に健康なハエでは多くの生存に必須な遺伝子の発現の減少が顕著でした。

直感に反して、健康なハエは血液腫瘍ハエよりも宇宙空間に敏感であったようです。

さらに、地球で宇宙旅行を経験したハエの子孫を育てたところ、親の宇宙旅行による影響はほとんど見られませんでした。

宇宙での寄生バチ

宇宙旅行をしたハチと地球のハチの毒性やその性質の変化はなく、ショウジョウバエへの寄生の成功率(ハチが無事に羽化してくる割合)もほとんど変わりませんでした。
また、遺伝子にも変化はありませんでした。
しかし、宇宙旅行をしたLeptopilina heterotoma(様々な種に寄生する方のハチ)の孫には突然変異が起き、翅のメラニン化が阻害され通常の翅よりもわずかに色が薄い個体が得られました。

B野生型C変異型/Credit:Jennifer Chou et al.IScience(2024)

この翅の色の薄い個体どうしをさらに掛け合わせていくと翅の後縁が野生型と比べて角張っている突然変異体が得られました。
また、この変異は両翅に見えることともあれば片方の翅のみに見られる場合もありました。

D両翅E右翅/Credit:Jennifer Chou et al.IScience(2024)

これらの翅の変異は生存や繁殖に大きな影響をおよぼずものではありませんが、翅の後縁が角ばっている変異体ではさらに重要な変異が見つかりました。
なんと、これらの変異体のメスは産卵することができなかったのです。
腹部を解剖して卵巣と卵子を検査しましたが異常は見られませんでした。
しかし、メスの生殖器の末端が鋭い針状ではなく、枝分かれした形に変化していました。

雌生殖器/Credit:Jennifer Chou et al.IScience(2024)

画像のように先端がばらけてしまっていて上手く産卵管を差し込むことができなかったのでしょう。

以上の結果を踏まえると、寄生バチはハエの体内にいる間は宇宙空間の放射線から守られていたが羽化して外へ出た後に生殖細胞系列のDNAが影響を受けたのかもしれません。

まとめ

今回のショウジョウバエと寄生バチの宇宙旅行の結果から宇宙ステーションを放射線の有害な影響から守るための努力にもかかわらず、宇宙ステーションを放射線の有害な影響から守るための努力にもかかわらず、宇宙ステーションにいる動物がDNA損傷や生理学的機能不全のリスクにさらされていると言えます。

また健康なハエの方が血液腫瘍ハエよりも宇宙空間に敏感であったり、寄生バチの生育には影響がほとんどないなどの直感に反する結果が得られたことから、宇宙飛行の影響は必ずしも単純に予測できない可能性があると言えるでしょう。

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