元論文
Morphological changes in female reproductive organs in the African monarch butterfly, host to a male-killing Spiroplasma
https://peerj.com/articles/15853/#results
オスとメスは戦略が異なる
ほとんど全ての生き物は子孫の繁栄を目指しています。
人間も昆虫も基本的には有性生殖なのでメスの卵がオスの精子を受精しないと子どもは生まれません。また、生まれた子どもが成長して大人になって子どもを作ることができなければ子孫繁栄は失敗に終わります。
メスの卵は大きくて数が少なく、オスの精子は小さくて数が多いです。そして実際に子どもを産むのはメスです。
なので一生の内にメスが産むことができる子どもの数は限られていますが、オスは多くのメスと交尾をすれば無数に子どもを作ることができます。
それ故にオスとメスでは子孫繁栄のための戦略が異なるのです。
オスはより多くのメスと交尾をし、他のオスが自分と交尾をしたメスと交尾をすることを防ぎます。
メスはより優ぐれたオスと交尾をするために相手を慎重に選んだり、交尾前に食べ物などのプレゼントを要求して子どもを産み育てるための資源をオスに投資させたりします。
チョウのオスはメスに「交尾の贈り物」を注入する
チョウのオスは交尾の際に精子と一緒に栄養分の入った精包という袋をメスの交尾のうという袋の中に注入します。
大きな精包はメスの産卵のための助けになると同時に、メスの交尾器に栓をして他のオスとの再交尾を防ぐ可能性もあります。
しかし、大きな精包つくるためにはその分多くの栄養などのコストが必要です。
メリット・デメリットが通常とは異なるため子孫繁栄の戦略も変わってきます。
男女比を狂わせる悪いヤツ
他の生き物の体の中で生活する細菌を共生細菌といい、人間の体の中にも存在しています。
共生細菌にも食べ物の消化を助けてくれるような良いヤツもいれば悪いヤツもいます。
おそらく昆虫にとっての悪いヤツの代表はスピロプラズマやボルバキアでしょう。
ヤツらはオスだけを殺すのです。その結果オスの数が少なくなり、メスは交尾ができる可能性が低くなってしまいます。
また、数少ないオスたちは多くのメスと交尾をするため、精包の栄養分が枯渇します。
そうなると、卵に十分な栄養が行きわたらなかったり、産卵数が減ってしまったりするかもしれません。
女性器の変化は悪いヤツらのせい?
昆虫も悪いヤツらに「やられっぱなし」というわけではなく戦略を変えて対抗しているのではないでしょうか?
そして、子孫繁栄の戦略が変化すると生殖器の形や大きさも変化するかもしれません。
ヘルシンキ大学の研究チームがこの仮説を検証しました。
スピロプラズマやボルバキアは同じ種類の昆虫でも地域によって共生している割合が低かったり高かったり、全く共生していなかったりします。
カバマダラというチョウにはスピロプラズマが共生し、その割合はケニアでは高くルワンダで低く南アフリカでは0であることが知られています。
研究チームはこれらの地域のカバマダラのメスおよび幼虫から育てた未交尾のメスの生殖器の形状を比較しました。
未交尾およびケニアのメス生殖器はしわくちゃで萎んだ形で色は半透明でした。一方、ルワンダと南アフリカのものはしわが少なく大きく膨らんでおり、色は濃いオレンジ色でした。
やはり、ケニアとルワンダおよび南アフリのメス生殖器の形状は異なっています。
スピロプラズマのオス殺しに対抗した結果、このような違いが生じたのかもしれません。
しかし、未交尾のメスとケニアのメスの生殖器に大きな違いが見られないのはなぜでしょうか?
ケニアではオスが殺されてしまい、メスはルワンダや南アフリカのメスと比べて交尾の回数が少ない可能性が高いです。
このため未交尾のメスと形状が似ていると考えられます。
つまり、ルワンダや南アフリカのメスは交尾で注入された精包に満たされて生殖器がオレンジ色に膨らんでいたということです。
このようなパターンが生じたのは、メスに偏った集団ではメスの処女率が高いためであり、共生細菌によるオスの減少のためではなかったのです。
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