ヤブ蚊が海に進出するかもしれない

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元論文
Effect of water salinity on immature performance and lifespan of adult Asian tiger mosquito
https://parasitesandvectors.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13071-023-06069-5

ヤブ蚊(ヒトスジシマカ)

ヒトスジシマカ

一般的に日本でヤブ蚊と呼ばれる蚊はヒトスジシマカという種類の蚊であることが多いです。
白黒の縞模様で一度は目にしたこと、血を吸われたことのある人がほとんどかと思います。
ヒトスジシマカは世界中に広く分布しており、日本でも至る所で見かけますが、デング熱、チクングニア熱、ジカ熱といった病原菌を媒介する重要な衛生害虫でもあります。

卵、幼虫、蛹は水中で生育し、水たまりや池、雨水桝うすいますなどから発生します。
これらの水は全て塩分濃度の低い淡水(真水)であるためヒトスジシマカは海水(塩分濃度30ppt以上)や汽水(塩分濃度0.5~30ppt)では生育できないと考えられてきました。
※pptは濃度を表す単位 1ppt=0.0000000001%

しかし、沿岸部での発生も確認されるようになってきました。
地球温暖化とそれに伴う海面上昇により、沿岸地域では海水や汽水が増加すると言われていますが、
ヒトスジシマカが海水や汽水でも生育できるならば生息域が拡大することになります。
そこで、スペインのCentre for Advanced Studies of Blanesの研究チームはヒトスジシマカの幼虫をミネラルウォーター、蒸留水(不純物のない水)濃度の異なる塩水(蒸留水に塩を溶かしたもの)で飼育し塩分濃度の影響を調べました。

a幼虫飼育b蛹、成虫飼育/Credit:Laura Blanco-Sierra et al. Parasites & vectors(2024)

塩分濃度の影響

幼虫の生存率は基本的には塩分濃度の上昇に伴って低下し、24時間以内に12pptで80%死亡、15pptで全滅しました。
塩分濃度が高いほど体内で塩分濃度を下げるためのコストがかかり生育に不利になった可能性が高いです。
しかし、例外的に蒸留水より0.2ppt、0.5pptよりも1pptの方が生存率が高かったです。
また幼虫から成虫までの生存率が最も高かったのはミネラルウォーターでした。
1ppt以下の塩分濃度では蚊の体液に比べて塩分濃度が低すぎたのかもしれません。
また、先行研究で海水を水道水で希釈した場合は15pptまで幼虫が耐性を示しており、ミネラルや電解質もヒトスジシマカの発育において重要な役割を果たしているのかもしれません。

塩分濃度と幼虫の生存率/Credit:Laura Blanco-Sierra et al. Parasites & vectors(2024)

幼虫から蛹になるまでと成虫になるまでの生存率はほぼ同じでした。
このため、蛹に対する塩分濃度の影響は低いと考えられます。
また幼虫期の塩分濃度の違いは発育スピードにも羽化後の寿命にもほとんど影響がありませんでした。
これらの結果からヒトスジシマカは塩分濃度が12ppt未満であれば幼虫が生き残り、正常に羽化して生き延びることができるため、海水(塩分濃度30ppt以上)では発生できませんが汽水(塩分濃度0.5~30ppt)での発生は可能であると言えます。

研究チームはヒトスジシマカの元々の生息地である池や雨水桝うすいますへの殺虫剤の散布によって、都市部や郊外でそのような生息地がなくなったことによって沿岸部に追いやられ、適応してきた結果として幅広い塩分濃度での発生が可能になったのかもしれないという考察をしています。

ということは、いずれ海水にも適応してヒトスジシマカが海へ進出する日が来るかもしれません。

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