蚊・病原菌・カメ

Uncategorized

元論文
Culex erraticus (Diptera: Culicidae) utilizes gopher tortoise burrows for overwintering in North Central Florida
https://academic.oup.com/jme/advancearticle/doi/10.1093/jme/tjad174/7529013?login=false

米国の風土病と冬

ウエストナイルウィルス病、東部ウマ脳炎、セントルイス脳炎は米国の風土病として知られています。
これらの病原菌は春には鳥や蚊の体内に潜伏し、夏になると蚊を介して人や家畜に感染します。
気温が下がり、蚊の成虫数が減少する冬には感染率も下がります。
しかし、夏になると再びこれらの病原菌は猛威を振るいます。
なので、冬場はどこかで寒さを凌いでいるということになります。

冬になると病原菌たちはいったい何処へ行くのでしょうか?

蚊の体内で休眠することによって冬を越すと言われています。
では、蚊は何処へ行くのでしょうか?

実は蚊も冬眠し、中でもウエストナイルウィルスを媒介するイエカ属(Culex)の多くは成虫で冬眠します。
冬眠した成虫から次の世代へ病原菌が伝搬することによって、シーズン初期の病原菌の蔓延に一役買っている可能性があると言われています。

また、これらの蚊の多くは木の穴や地下に埋設した水路のような、保護された、乾燥した、暗い微小な場所で冬眠します。
これらの場所での調査は困難なため、蚊が媒介するウイルスの定着や伝播に越冬が果たす役割を評価することは難しいとされてきました。
そこで、フロリダ大学の研究チームはとあるカメの巣穴に着目しました。

カギを握るカメ

カメの巣穴に

アメリカに生息するアナホリゴーファガメというカメは巣穴を掘って生活しています。

アナホリゴーファガメ/Credit:Timothy D McNamara et al.Culex erraticus (Diptera: Culicidae) utilizes gopher tortoise burrows for overwintering in North Central Florida .jornal of medical entomology(2024)

この巣穴は気温の変化や雨を遮断し、小型の哺乳類や爬虫類の隠れ家にもなっています。
300種以上の無脊椎動物と60種以上の脊椎動物がアナホリゴーファガメの巣穴を利用していることが確認されています。
蚊にとっては寒さをしのぎつつ、近くに血を吸える哺乳類や爬虫類もいて一石二鳥な場所であると考えられます。
しかし、アナホリゴーファガメの巣穴での蚊の存在や生態については調べられていなかったため、研究チームは11カ所の巣穴を、吸引器を用いて2021年9月から2022年2月までの10カ月の調査を行いました。

吸引器で巣穴から蚊を吸う/Credit:Timothy D McNamara et al.Culex erraticus (Diptera: Culicidae) utilizes gopher tortoise burrows for overwintering in North Central Florida .jornal of medical entomology(2024)

巣穴から合計2,768匹の蚊が採集され、その内97.3%はメスでした。
また、採集された蚊はCulex erraticus(98.0%)Anopheles crucians s.l(1.8%)、Mansonia dyari(0.1%未満)、Uranotaenia sapphirina(0.1%未満)の4種類でした。
ほとんどがCulex erraticusだったため研究チームはこの1種に絞って調査を進めました。
Culex erraticusは前述のイエカ属(Culex)の蚊であり、ウエストナイルウィルスを媒介することが知られています。

冬の蚊

月ごとの捕獲数を比較すると、
平均日長が12時間未満の10~2月は1回あたりの平均捕獲数が11.5 ± 1.3
平均日長が12時間以上の3~6月、9月は1回あたりの平均捕獲数が0.6 ± 0.1
でした。
日長が12時間未満なのか12時間以上なのかによって10倍以上の差が見られました。
また、巣穴が草地にあるか砂地にあるかといった地形的な要因による捕獲数の差異は見受けられませんでした。
したがって、Culex erraticusは日長から冬の時季を感知してアナホリゴーファガメの巣穴で冬眠していると考えられます。
※温度で判断すると冬でもたまにある暖かい日に冬眠から覚めて次の日から寒い日が続く危険性があるので日長によって冬眠を制御している生き物が多いです。

さらに採集された蚊の中で血を吸っていた個体は全体の9.3±2.0%でした。
月ごとに比較すると、
平均日長が12時間未満の10~2月は1.3±0.9%
平均日長が12時間以上の3~6月、9月は39.7±7.0%
でした。
日長が12時間未満なのか12時間以上なのかによって約40倍の差が見られました。
捕獲数とは正反対の傾向がみられるため、蚊は巣穴を冬は餌場としてよりも休息場所として利用している可能性が高いです。

また、蚊が血を吸っていた動物の種類を調べると、
80%はアナホリゴーファガメ、5%はアメリカアリゲーター(ワニ)、5%はオジロジカ、5%はチャガシラヒメドリ、5%はアサギアメリカムシクイ(鳥)でした。
アメリカアリゲーター、チャガシラヒメドリ、アサギアメリカムシクイは病原菌を保有している可能性が高いと言われています。
また、アナホリゴーファガメが病原菌を保有している可能性は不明ですが、近縁種のリクガメなどでの病原菌の保有が確認されています。

まとめ

調査の結果からアナホリゴーファガメの巣穴が蚊(Culex erraticus)の冬眠場所となっており、同時に病原菌の冬眠場所となっている可能性も高いということが分かりました。
また、今回採集された蚊が吸血していた動物の85%は爬虫類(内80%はアナホリゴーファガメ)であり、カメやワニなどの寿命の長い爬虫類は長期間病原菌を保持する可能性が高いと言われています。
そのため、アナホリゴーファガメの巣穴が病原菌の温床になっているのかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました