ゴキブリの遺伝情報から昆虫の胎生の進化の仕組みを解明!

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元論文
Live-bearing cockroach genome reveals convergent evolutionary mechanisms linked to viviparity in insects and beyond
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(23)01909-0?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS2589004223019090%3Fshowall%3Dtrue#secsectitle0020

胎生は哺乳類だけじゃない

有性生殖の動物の繁殖方法は卵生、卵胎生、胎生の3つに大きく分けられます。
卵生は母親が体の外に卵を産み、胎生は母親の体の中で孵化して子はある程度成長した後に母親の体の外に出ます。卵胎生は母親の体の中で卵が孵化しますが子はその後すぐに母親の体の外に出ます。
多くの動物は卵生から胎生へと進化してきました。
胎生の動物は人間や馬のような哺乳類が多くを占めますが爬虫類や魚類、昆虫にも胎生のものが存在します。
卵生から胎生への進化の過程について哺乳類、爬虫類、魚類(脊椎動物せきついどうぶつ)でよく研究されてきました。
それらの中で卵殻の減少、産卵の遅延、母親から子への栄養供給の強化、母体のガス交換機能の発達、母体の子に対する免疫拒絶反応の抑制などが起こるということが分かっています。
哺乳類でも爬虫類でも魚類でも卵生から胎生への進化の過程では共通して上記のような現象が起こります。
このように全く別の種類の生き物が似通った進化の過程をたどることを収斂進化しゅうれんしんかと言います。

しかし昆虫では胎生の進化についてまだあまり研究されていませんでした。
そこでヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学の研究チームは胎生の昆虫の遺伝情報(ゲノム)の解読・比較を行いました。

昆虫の胎生の進化

研究チームは胎生の昆虫としてツェツェバエ、アブラムシ、ビートルローチという甲虫のような見た目のゴキブリの遺伝情報を比較しました。この中でビートルローチの遺伝情報は新規に解読しました。
※アブラムシは有性生殖で卵生で繁殖する時期とメスのみの単為生殖で胎生で繁殖する時期があります。

Credit:Bertrand Fouks et al.Live-bearing cockroach genome reveals convergent evolutionary mechanisms linked to viviparity in insects and beyond.iScience(2023)
生まれてからが勝負?

ビートルローチと胎生期のアブラムシは卵生の昆虫と比べて胚形成の期間が短くなっておりツェツェバエは胎内で一度の産卵で1つの卵しか産まないという特徴が見られました。
卵生の昆虫であれば一度に多くの卵を産むものが多いです。
胎生の場合はより多くの子を産むことよりも少ない数の子を確実に育てることを重要視するため、このような特徴が見られたのかもしれません。

胎生の必需品

母体から子への栄養供給や母体と子の間でのガス交換のために昆虫でも胎盤のようなものが形成されます。胎盤は人間のような哺乳類などでも母体と子を連絡する器官として妊娠時に子宮内に形成されます。
ツェツェバエとビートルローチでは胎盤のようなものが形成されるのに伴って、昆虫の皮膚の硬い部分(外骨格がいこっかく)の主成分であるキチンをつくるのに関連する遺伝子が増加していることが確認されました。
昆虫ではキチンや筋肉が再構成されることによって胎盤のようなものが形成されるようです。
ツェツェバエでは妊娠初期に幼虫の呼吸に必要な2つの気門(昆虫が呼吸するための穴)がキチンによって形成されます。
研究チームはビートルローチの妊娠初期の筋肉の再構成に関連する遺伝子の働きを抑制し、妊娠周期の乱れや遅れが見られたことから筋肉の再構成も胎盤のようなものを形成する上で重要であるということが分かりました。
また、ビートルローチの母体からの栄養輸送に関連する遺伝子を抑制した場合も妊娠周期の遅れが見られました。

人間の胎盤と赤ちゃん
栄養生産の変化

妊娠中に母親が子のために生産する栄養素はビートルローチとツェツェバエでよく特徴づけられていました。
ビートルローチとツェツェバエの両方で脂質と炭水化物の生産に関わる遺伝子の増加が確認されました。妊娠後期にはタンパク質合成(翻訳ほんやく)に関与する遺伝子が増加していました。
人間の場合は赤ちゃんが生まれた後に母親が母乳を与えるが、ビートルローチでは妊娠中に乳腺からの乳タンパク質を主な栄養源として胎児に供給します。
しかし、1つの乳タンパク質に関わる遺伝子の働きを抑制しても妊娠への影響はありませんでした。
これは他にも20種類以上の類似した乳タンパク質遺伝子が存在するため胎児の発育に必要な栄養を補うことができたためだろうと考えられます。
また、栄養分の生産と分泌の調節は、胎生昆虫では主に母親のホルモン制御によって支配されており、特に幼若ホルモンによって支配されているということも確認されました。

胎児を母体に受け入れさせる

人間も昆虫も病原菌のような「自分ではないもの」だと体が認識するようなものが自分の体の中に入ってきたものは排除しようとします。このような体の働きによって病原菌などから身を守ることができます。
しかし母体にとっての胎児も「自分ではないもの」として体に認識されてしまいます。
このため人間などの哺乳類や爬虫類や魚類では妊娠中は免疫力が低下します。
研究チームはビートルローチの妊娠中のメス、妊娠していないメス、オスを細菌感染させて免疫力を比較しました。
その結果、妊娠中のメスの病気への抵抗力は低く、妊娠中と非妊娠中で複数の免疫に関わる遺伝子の発現が異なるということが分かりました。
やはり昆虫でも母体が胎児を受け入れるために免疫力を低下させていたようです。

ゴキブリもヒトも

昆虫も卵生から胎生への進化において哺乳類、爬虫類、魚類(脊椎動物せきついどうぶつ)と同様に胎盤(のようなもの)ができ、母体で生産される栄養素が変化し、免疫力が低下するという特徴が見られました。
種によって遺伝子などの細かいレベルでは異なっていますが、大まかな身体機能の変化はそれぞれ共通していました。
したがって、昆虫の胎生も哺乳類、爬虫類、魚類と同様の収斂進化をしてきたのだろうと思われます。

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