アリの集団における免疫力を最大化させるための毛繕いのルールを解明!

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元論文
Dynamic pathogen detection and social feedback shape collective hygiene in ants
htttps://www.nature.com/articles/s41467-023-38947-y

多くのアリは仲間同士で互いに毛繕いを行い、体に付着した病原菌を除去することが知られています。

しかし、各個体がどのようにして毛繕いをする相手を選択しているのか、あるいは毛繕いを受けることを選択するのかといった行動の意思決定のメカニズムはよくわかっていませんでした。

そこでオーストラリア科学技術研究所のバーバラ・カシージャス=ペレスらは病原菌を付着させた個体を含む6匹からなる集団の毛繕い行動を観察しました。

その結果、より多くの病原菌が付着している個体の毛繕いを優先的に行うと同時により多く他個体からの毛繕いを受けた個体は自身が他個体に対して毛繕いを行うことを抑制することが判明しました。

研究の詳細は、2023年6月3日付で科学雑誌『nature communications』に掲載されています。

アリたちの「衛生管理行動」の謎

アリやシロアリやミツバチは仲間同士で集団生活を行い、社会性昆虫と呼ばれています。
アリなどの社会性昆虫は集団で食べ物を集めたり巣を作ったりすることが知られています。
また、仲間同士で協力して集団内で病気が蔓延するのを防いでいると考えられる行動も観察されています。
その行動のうちの一つとしてお互いの体へ毛繕いを行い病原菌を取り除くことが知られています。
口から体表面の病原菌を取り込み、後頭部のinfrabuccal pocketと呼ばれる器官で圧縮・消毒し、その後不活性化した病原菌を小さな粒状にして排出します。
しかし、アリたちの毛繕い行動がどのような規則に基づいて選択されるのか、またどのようにして集団全体の病気の予防につながるのかは、まだほとんど研究されていませんでした。

集団での毛繕い行動における意思決定のプロセス

まず研究チームはアリたちの集団での毛繕い行動における個体ごとの意思決定がどのようになされているのかを理解するために、6匹中2匹に対して任意の量の病原菌を付着させた集団内で毛繕いの対象や時間などを自由にを選択できる実験を行いました。
さらに実験終了後には各個体の体表に付着している病原菌、infrabuccal pocket内の病原菌及び不活化されて排出された病原菌の粒の量のを測定しました。

病原菌の付着が毛繕いを誘発する?

病原菌を付着させたアリは自分に対する毛繕い行動をより積極的に行いました。
これに対して、病原菌を付着させなかった残りのアリたちは病原菌の付着した個体に対してより積極的に毛繕いを行いました。
また、病原菌の付着した個体の毛繕いを行った後には自身への毛繕いにより長い時間をかけるようになりました。
しかし、病原菌を付着させた個体から毛繕いを受けた後に自身への毛繕いへの積極性が変化することはありませんでした。
どうやら他個体と接触したときに自身への毛繕いを熱心に行うというわけではなさそうです。

infrabuccal pocketに病原菌をためこんでいく

実験終了時に測定したinfrabuccal pocket内の病原菌の量は実験の最後の60分間(病原菌付着後30~90分)のアリの毛繕いの傾向とよく相関していました。
しかし、実験開始後30分時点でのinfrabuccal pocket内の病原菌の量はアリの毛繕いの傾向とは関連性が見られませんでした。
研究チームはアリが実験初期の段階では病原菌を不活化した粒としてすでに排出してしまったためだと考えました。
最初に全体的により多くの病原菌を付着させていた実験グループは、より多くの不活化した粒を生成しました。
このことからアリはinfrabuccal pocketがいっぱいになるまで毛繕いを行い、infrabuccal pocketがいっぱいになると病原菌を不活化させた粒の排出を行うと結論付けました。
そして不活化された粒が排出されるまでにかかる毛繕いの時間は増加していきました。
このことからグループ内の病原菌の量が減少していくにつれて毛繕いによる病原菌の除去の効率が低下するということが示されました。

「今現在の」病原菌の付着量に応じて毛繕いの相手を変えていた!

さらに、研究チームは毛繕い行動のデータと実験終了後に測定した各個体の病原菌の量のデータから実験中の各個体の病原菌の残存量を導き出しました。
その結果、アリたちは「今現在」最も病原菌の付着量の多い個体の毛繕いを行うということが分かりました。
つまり毛繕いを継続していく中で病原菌の付着量の変化を感知して、毛繕いを行う相手をそれに合わせて変えるということです。

実験中の病原菌の残存量の変化/Credit: Barbara Casillas-Pérez et al. Dynamic pathogen detection and social feedback shape collective hygiene in ants. nature communications(2023)
どうやって仲間の病原菌の付着量を感知するのか?

果たしてどうやってアリたちは病原菌の付着量を感知するのでしょうか?
病原菌の付着量のより多い個体を選択して毛繕いを行う手段として、
研究チームは他個体へ毛繕いをする前に、毛繕いをする相手を順次探っている可能性を検証しました。その結果、ほとんどの他個体への毛繕いの前には、アリによく見られる認識・識別行動である触角を触れ合わせる行動が見られ、アリは最終的に毛繕いをする相手を選ぶ前に、異なる個体と何度か一時的に接触していたということが分かりました。

様々な個体と触覚を触れ合わせて毛繕いを行う相手を選ぶ

また、自身が他個体から毛繕いを受けないことによって他個体への毛繕い行動が促進され、自身が他個体から毛繕いを受けているときには他個体への毛繕い行動を抑制する傾向も観察されました。

アリたちは集団レベルで病気への感染のリスクを下げるために常に情報を更新し行動を変化させているということが分かりました。アリも人間も感染症の蔓延を防ぐ上で情報とともに行動を更新していくことが重要なようですね。

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